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着床前診断における問題点とは?受ける前に知っておきたいこと

妊娠に対して不安を抱えている方にとって、着床前診断はひとつの希望とも言える選択肢です。しかし、着床前診断は決してまだ一般的とは言えない段階のため、問題点があるのではないかと気になる方も多いはずです。そこで、こちらの記事では着床前診断が抱える問題点について、物理的・倫理的な視点から掘り下げてみました。

着床前診断の基本情報

まずは、着床前診断の基本的な情報について説明します。

着床前診断の目的

着床前診断は、妊娠継続率を向上させたり、不妊に悩む夫婦やカップルの流産率を低下させるのが目的で行われます。

妊娠前に行う診断であることが特徴ですが、メリット・デメリットをしっかりと理解をしたうえで受ける必要があります。

着床前診断の対象者

着床前診断を受けるには条件が定められており、対象者も限られます。

出生前診断と区別がつきにくいですが、この2つには対象者となる条件に違いがあり、着床前診断は過去の妊娠や流産経験などが考慮されるのが特徴です。

着床前診断は保険適用範囲なのか?

着床前診断は、これまで保険適用外の診療として扱われていました。

しかし、大阪大病院の申請により、2023年3月の厚生労働省の先進医療会議において、着床前診断が「先進医療B」として扱われることが了承されました。

これにより、検査費は実費であるものの、体外受精に関する費用においては保険が適用されることが認められたのです。

現段階(2023年6月)でまだ他の例はありませんが、今後さまざまな大学や病院からの申請が広がるのではないかと予想されています。

着床前診断の物理的問題点

着床前診断の物理的な問題点には、以下のようなものがあります。

診断を受けるまでに時間を要する

着床前診断を受けるには、いくつかのステップを経る必要があり、かなり時間を要します。

まずは、対象者かどうかの審査ですが、こちらは「担当医の判断→日本産婦人科学会への申請→承認」という順番で行われ、短くても半年ほど必要です。その間に、検査やカウンセリングが何回も行われます。

無事認定を受けたら、次は体外受精ですが、こちらは1回につき1〜2か月ほど必要です。1回でうまくいくとは限らないので、さらに時間がかかる場合もあります。

着床前診断は決して簡単な検査ではなく、医療技術の高さや倫理観の高さが求められる検査なので、実施されている機関が限られているのも時間がかかる要因となっているでしょう。

診断の結果は必ずしも確実ではない

長い期間を経て着床前診断を受けるわけですが、その結果は100%信憑性があるものではありません。

そもそも着床前診断は、特定の遺伝性疾患について調べる検査なので、対象となる疾患がなかったとしても、先天的な疾患などほかの疾患を持つ胎児が生まれる可能性はゼロではないということです。

着床前診断にはリスクもある

着床前診断は、一旦体内に戻した受精卵の一部を採取して、検査をしたのちに染色体に異常がない可能性の高い細胞のみを子宮に戻します。

検査の過程や移植において、何かしらの影響を受けるリスクが全くないとは言い切れません。そのリスクがないということは、胎児の成長を通してのみ証明できることと言えます。

着床前診断は費用が高額

前出の通り、2023年3月に先進医療として認められたことで、一部の保険適用が可能となりました。

しかし、こちらは日本産婦人科学会の認可が下りている機関に限られています。一般的なクリニックで着床前診断を受ける場合は実費となり、その費用はそれぞれのクリニックで異なりますが、相場は50万円〜100万円と全体的に高額です。

自治体から助成金が出るケースもあるので、検査を検討している方は各自治体に問い合わせてみてください。

着床前診断の倫理的問題点

着床前診断には、判断が難しい倫理的な問題点もあります。

命の選別

着床前診断の倫理的問題といえば、やはり命の選別の問題が挙げられます。

流産する確率が高いと診断されたとはいえ、その確率は100%ではなく、無事出産できる可能性も少なからずあります。そのようなケースで生まれた赤ちゃんは、生後間もなく亡くなったり、ダウン症など先天性疾患がある場合も多いです。

となると、着床前診断で受精卵の選別を行うことは、短命な赤ちゃんや障害を持って生まれる赤ちゃんの生きる権利を侵すことになるのではないか?という点が問題となっています。

一方、流産は女性にとって耐えがたい経験であることは間違いありません。何度流産を経験しても子供が欲しいと願う方にとって、流産のリスクが減るのは藁をもすがる思いでしょう。

命の選別については、考え方に個人差があって当然です。着床前診断を検討している方は、自分自身の考えを担当医に伝え、焦らずゆっくり考えたうえで決断を下してください。

期待値の高さ

着床前診断は、すべての流産を予防できるわけではありません。流産の原因は受精卵にある場合だけでなく、母体にある場合もありますが、それによる流産を防ぐことは不可能です。

また、着床率や受精率の向上にも影響はありません。過度に期待するとそれだけ落胆も大きくなるので注意してください。

流産に対する賛否

流産は、心身共に傷つく経験です。特に習慣的となれば、そのストレスは計り知れない状態となり、着床前診断は希望となり得ます。

もちろん、着床前診断を受けなくても、流産することなく健康な赤ちゃんを出産できる可能性もあります。しかし、これだけ医学が進歩した現在でも、妊娠や出産に対して100%安心とは言えないのが現状です。

流産は誰にでも起こり得ることですが、できる限り流産を防ぎたいという心情的な理由が着床前診断の背景にあるということは頭に入れておきたいところです。

着床前診断にはメリットも沢山ある

着床前診断は、ネガティブな面ばかりではなくメリットもあります。

流産のリスクが減る

流産の原因のひとつに、染色体異常があります。これは男女どちらかの染色体に原因があり、確実に流産を防ぐことができる治療法はまだありません。

着床前診断では、妊娠する前に調べることで、染色体異常が原因で起こる流産のリスクは減少します。

人工妊娠中絶を防ぐことができる

妊娠中に胎児に障害などがみつかった場合、苦渋の決断で人工中絶を選択する方もいます。

着床前診断によって妊娠する前にその可能性があるとわかれば、妊娠の方法などを検討することができるので、望まない人工中絶手術を防ぐことにつながります。

妊娠前に赤ちゃんの病気の可能性がわかる

着床前診断で染色体異常の有無を調べることで、赤ちゃんに重い病気や障害が遺伝する可能性の有無がわかります。

遺伝の可能性がなければ、安心して妊娠・出産に臨めるので、精神的なメリットも大きいです。

まとめ

着床前診断についてはさまざまな意見があり、問題点も見られるのが現状です。同時に、さまざまな理由で妊娠に対してネガティブな感情をお持ちの方にとっては、プラスの要素が含まれているとも考えられます。今回ご紹介した着床前診断の問題点を、ぜひパートナーやご家族との話し合いに役立ててください。