胎盤と赤ちゃんの関係性とは?常位胎盤早期剝離についても徹底解説!
胎盤は、赤ちゃんに栄養や酸素を渡すための臓器です。妊娠の成立とともに子宮の中にできて、へその緒(臍帯:さいたい)でお母さんと赤ちゃんとをつないでいます。胎盤は妊娠期だけでなく出産にとっても重要となる組織です。胎盤の役割や異常について解説します。
この記事の内容
胎盤とは
胎盤(たいばん)とは、赤ちゃんに栄養や酸素を渡すための臓器です。受精卵が子宮の内膜に埋もれると赤ちゃん側の細胞が動き出し、胎盤を造ります。子宮と胎盤の隙間は「絨毛間腔」と呼ばれるお母さんから送られた血液で満たされています。妊娠が成立するとともに成長し、胎盤を介して赤ちゃんはへそのお(臍帯、さいたい)でお母さんと繋がっています。
胎盤の役目
妊娠の週数が進むとともに胎盤も大きく成長していきます。胎盤の役目は胎児に栄養や酸素を届ける以外に、細菌やウイルスといった病原菌や薬のような有毒な成分が赤ちゃんに向かわないようにする役目もしています。
しかしアルコールやたばこのようにすり抜けてしまう成分もあるので注意が必要です。
胎盤の位置
正常な胎盤の位置は子宮の上の方の子宮底と呼ばれる部分の左右のどちらかに少し寄った位置です。超音波(エコー)検査で見えてくるのは妊娠10週以降です。
胎盤の構造
妊娠7週頃から造られはじめ、妊娠15〜16週には完成します。1つの卵子から造られてくる胎児と胎盤は、子宮側を母体面、胎児側を胎児面といいます。胎盤の組織はお母さんの子宮の脱落膜と胎児の組織である絨毛膜、羊膜の三層からなっています。
脱落膜は子宮内膜が変化したもので、分娩の時は脱落膜が二層に裂けて胎盤が子宮壁からはがれていきます。胎児面は胎児を包む卵膜(羊膜・絨毛膜)になっていて胎盤の中央付近からはへその緒が伸びている形です。絨毛と絨毛の間には母親の血液が充満しているため、割面は黒赤色です。
胎盤の6つの役割
胎盤は赤ちゃんが排出した老廃物を母体の血液に戻す働きもしています。胎盤は胎児の代わりに生命維持に必要な胎児の消化器、呼吸器、循環器、排せつ器、内分泌系器官の役割を代行しています。
呼吸器の役割
胎児は子宮の中で肺呼吸をしていません。胎盤は臍帯を通じ血流を利用して酸素を送り、胎児が排出する二酸化炭素や老廃物を母親の血液に戻すことをしています。
消化器の役割
胎児は食事をしません。胎児の胃や小腸、大腸といった消化・吸収機能は未発達で胎児に必要な栄養はすべて胎盤から血流を通してもらって生命を維持しています。そのため母体の血液中の物質は胎児に届く恐れがあることを知っておく必要があるのです。
循環器の役割
妊娠8〜10週になると心拍が見られるようになりますが、まだ大動脈や大静脈の働きはありません。臍帯は心拍を感じるように脈打ち、胎盤は胎児の血液を交換する循環器の役割をしています。
排泄器の役割
胎児の内臓器官は徐々に形成され問題にならない程度の胎便や尿の排泄もみられるようになりますが、その働きは機能しているとは言えない極わずかなものです。食物の残差物がないので羊水が濁ることはありません。血液を介して胎盤が担っています。
内分泌器の役割
胎盤は大量のエストロゲンとプロゲステロンを産生して排卵を抑制します。子宮内膜を維持するホルモンや子宮収縮をおさえるホルモン、胎児に優先的に栄養を送り成長を促すホルモンや母親のホルモンを刺激して妊娠の維持を助けています。
羊水をつくる役割
胎盤は羊水をつくり、子宮内で生活する赤ちゃんへの衝撃から守る働きをしています。
妊娠の経過と胎盤の変化
赤ちゃんと同じ1つの受精卵から作られた胎盤は、妊娠16週頃に完成し、その後も胎児とともに成長していきます。生まれた時の赤ちゃんの体重に一致していて大きい赤ちゃんの胎盤は大きく、小さい赤ちゃんの胎盤は小さい傾向です。
妊娠初期
胎盤が形成されて完成するまでは妊娠初期に行われます。妊娠9〜10週頃から胎盤はhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を分泌し始めます。妊娠初期の胎盤は将来育つ部分(繁生絨毛)と退縮する部分(絨毛膜無毛部)の区別がつきにくい状態です。完成する妊娠16週頃になれば胎盤の境界ははっきりしてきます。
妊娠中期
子宮内膜から絨毛が発達してきて完成した胎盤は妊娠20週以降から上記の6つの役割を担うようになります。母体から栄養を受け取り、胎児側の老廃物を母体に返す働きは妊娠週数に応じて胎児と一緒に胎盤が完成した後も成長し続けます。「卵黄嚢」という部分から栄養を得ていた栄養は母体からの栄養補給に替わり、成長の速度も増してきます。
妊娠後期
平均的な胎盤の重さは赤ちゃんの体重の5分の1から6分の1程度です。出産する頃には5〜6倍の大きさにまで成長します。重さは妊娠30週で約300g、40週で約500~600g程度で、直径は約20〜30cm、厚さは2〜3cmです。予定日近くになると徐々に老化していき、石灰化などがみられることもあります。
胎盤機能検査
出産予定日を含んだ妊娠37週〜妊娠41週の間に出産することを「正期産」といいます。母子ともにリスクが少ない出産時期とされています。
予定日が過ぎた胎盤は機能が落ちることから分娩の時期を判断するために、胎盤の機能を調べる「胎盤機能検査」があります。胎盤の機能検査は母体血中にある「胎盤性ラクトーゲン(hPL)」と「胎盤エストリオール(E3)」の量を測定します。超音波検査や胎児心拍数モニタリング検査の値を参考にして総合的に診断しています。
胎盤の異常
胎盤の胎児面に白い固めの粒がついているのは胎盤の石灰化です。正常な胎盤にはないものですが、治療の対象にはならない程度のものです。胎盤の異常は母と子の健康に関わるので、胎盤の位置や異常に目を向けておくと良いでしょう。
常位胎盤早期剥離
常位胎盤早期剥離とは、正常な位置にある胎盤が出産が始まる前に剥がれてくる状態をいいます。産科的緊急事態となりうる異常です。
早期胎盤剥離は妊娠後期ではなく妊娠20週でもおきることがあり、妊娠32週頃から急に増え、妊娠36週ごろの発症が最も多いとされています。出産直前に発症することも多く、出産が終わるまで注意を緩めることのできない異常です。
常位胎盤早期剝離になりやすい方
妊娠高血圧症候群や絨毛膜羊膜炎などの病気がある方は、常位胎盤早期剥離のリスクは高いとされています。
過去に常位胎盤早期剥離を経験した方は経験のない方に比べて約10倍高く、陣痛が起きる前に破水する「前期破水」が48時間前に起きた場合だと9.9倍です。お母さんが持っている病気では子宮内感染で9.7倍、妊娠高血圧症候群は4.45倍です。
35歳以上の出産や喫煙、突然の怪我や事故などで腹部に衝撃を受けた場合も胎盤の剥離が起きることが知られているので転倒には注意しておきましょう。妊婦さんの死亡原因のうち、11%が常位胎盤早期剥離です。
症状
常位胎盤早期剥離の症状は、出血と下腹部の痛みやお腹の張り・硬さが増すといった切迫早産と似た症状です。子宮の収縮や腹筋の緊張(板状硬)は陣痛の痛みと違い持続的です。妊娠後期に出血やおなかの張りを感じた場合は、常位胎盤早期剥離の可能性を疑います。
剥離がおきたら栄養と酸素が送られにくくなるので、胎児の動きが少なくなったと感じることがあります。赤ちゃんに後遺障害を残すこともあるとされ、脳性麻痺の原因の3割が常位胎盤早期剥離だったとの報告があります。
新生児期の脳室内出血や精神発達遅滞、てんかんなどの発達障害との関係も指摘されています。常位胎盤早期剥離が起きた場合、赤ちゃんの死亡率は25〜30%に上ります。死産と早期新生児死亡を含めた全周産期死亡のおよそ20%が常位胎盤早期剥離によるものです
対処方法
母体や胎児にとって危険があると判断された場合は、帝王切開や人為的に短時間で分娩を行う急速遂娩の処置をすることもあります。赤ちゃんがまだ成熟しておらず、母子の容態に合わせて管理入院をして、妊娠の経過を見ることがあります。
前置胎盤
前置胎盤とは、子宮口を塞ぐ位置にできた状態のものをいいます。正常な位置とは子宮体部と呼ばれる、子宮の上の方にあるのが一般的です。
普通の分娩ができるかどうかが問題になるので、胎盤と子宮口の関係によって「全前置胎盤」や「部分前置胎盤」あるいは「辺縁前置胎盤」」といった表現をしています。また子宮口から2cm以内にできた胎盤は「低置胎盤」です。この状態も前置胎盤と同じ対処法がとられます。
前置胎盤になりやすい方
前置胎盤の原因は不明です。しかし、なりやすいとされているのは流産や中絶、帝王切開、子宮筋腫など何らかの手術によって、子宮の内膜が傷ついている場合です。
症状
前置胎盤の症状は特にありません。しかし、妊娠28週以降に腹痛を伴わない突然の出血が起こることがあります。100~200ccぐらいの大量な不正出血が起きた場合は、すぐの受診が必要です。
対処方法
妊娠初期や中期に「前置胎盤の疑いがある」となっても、妊娠が進行し子宮が大きくなってくると、胎盤は上に移る可能性もあるので、最終判断は妊娠31週末頃に行います。
帝王切開を行う割合が高いのは36〜38週です。定期的に経腟超音波検査を受けることが重要になります。
胎盤機能不全
自然に陣痛が来ないためにおきる胎盤機能不全は妊娠42週を期限としています。胎児の健康を優先して陣痛促進剤を使った出産を試みます。
胎盤の機能が低下したために生まれた赤ちゃんは低栄養、低酸素の状態にさらされた風貌をしています。
症状
胎盤機能不全症候群で生まれた赤ちゃんは細長い体型をしていることが多く、皮膚の亀裂や表皮の剥離がみられるなど乾燥がみられます。
排泄した胎便の色で皮膚や臍帯が黄緑色に着色していることもあります。
お母さんに妊娠高血圧症候群がある場合の症状は高血圧症、蛋白尿、浮腫(むくみ)です。
また、妊娠42週を超える傾向にある方や過期妊娠・妊娠高血圧症候群や糖尿病、腎炎などの病気がある方が胎盤機能不全になりやすいと言われています。
対処方法
出来る限り安静にして妊娠を継続させます。そのため入院して経過を観察する場合は、お母さんのおなかに胎児の心拍を取るためのセンサーやお母さんのおなかの張り(子宮収縮)をみる2種類のセンサーを着けておきます。緊急の場合は帝王切開による出産です。
出産後の赤ちゃんに低体温や多血症、低血糖がみられる場合は合併症を想定して小児科医の指示を受けます。お母さんに妊娠高血圧症候群の症状がある時は水分や塩分の制限を心がけます。
まとめ
受精卵が胎盤をつくり胎児を育て、出産に至る間の道筋に胎盤は関わっています。胎盤は胎児の未熟な機能に対応しながら、母と子のつながりを調整する役目も担っています。お母さんの心地よい環境は胎児にとっても気持ちが良い環境になることを思って、無理せず赤ちゃんの誕生を待ちましょう。
参考文献
・産婦人科 診療ガイドライン ―産科編 2020 公益社団法人 日本産科婦人科学会 公益社団法人 日本産婦人科医会