/ 胎児の染色体異常/

アンジェルマン症候群とは?症状や特徴を解説

アンジェルマン症候群は性染色体の異常によって生じる先天性疾患のひとつです。

妊娠中の方の中には生まれてくる子供に先天性疾患がないか不安な方も多いと思います。

本記事ではアンジェルマン症候群の特徴や症状、早期に発見するための検査方法を解説いたします。治療法や予後についてもまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。

アンジェルマン症候群とは

アンジェルマン症候群の概要を紹介します。

15,000人に1人の割合でみられる指定難病

アンジェルマン症候群は出生時の15,000人に1人の割合でみられる疾患です。

日本国内には1000人〜3000人の患者が生活していると言われています。

この疾患は重度の知的障害を呈する難病であり、小児特定慢性疾病の一つに指定されています。

特徴的な症状としては言葉の出にくさや発達の遅れやてんかん発作のほか、ぎこちない動き方、良く笑うことなどが挙げられます。

また、とがった顎や大きな口、肌の色素が薄いなど外見の特徴もみられることが多いです。

15番染色体の異常により生じる

アンジェルマン症候群は遺伝情報を伝える染色体の異常により生じます。

1〜22の常染色体のうち、15番目の染色体の欠失や突然変異により生じ、母親から受け継ぐUbe3aに変異が起こることが原因です。

15番目の染色体に生じる異常にはさまざまなタイプがあり、それぞれ発生する確立が異なっています。

  • 欠失型・・・全体の70%
  • 片親性ダイソミー型・・・全体の5%
  • 刷り込み変異型・・・全体の5%
  • Ube3a突然変異型・・・全体の10%

このほか明確原因の解っていない不明な型が10%あります。

全体の70%を占める欠失型は遺伝性がないため、親から遺伝して発症する疾患ではないと言えます。

刷り込み変異型、Ube3a突然変異型には遺伝の可能性がありますが、症状としては欠失型よりも軽いとされています。

また、同じ15番染色体の異常から生じる15トリソミー(プラダーウィリー症候群)とは症状や経過が全く異なります。

平均寿命は健常人と変わらない

染色体異常症の中には15トリソミーや極端に寿命の短くなる疾患も存在しますが、アンジェルマン症候群の患者は健常人と変わらない平均寿命となっています。

ただし、注意欠如や多動症、誤飲や運動発達の遅れによる転倒などが生じるため、事故や怪我などに注意して生活する必要があります。

アンジェルマン症候群の特徴と症状

アンジェルマン症候群の患者にみられる特徴や症状、合併症について紹介します。

身体的な特徴と症状

アンジェルマン症候群の患者は、外見に以下のような特徴がみられます。

  • 突き出ていてとがった顎
  • 口が広く大きい
  • 舌を突き出す
  • 歯列に隙間がある
  • 扁平な後頭部

こうした顔貌の特徴に加え、表情は笑顔になりやすく、唾液の分泌過多により流涎がみられることがあります。

これらの特徴は必ずみられる訳ではなく個人差があります。

また、顔つき以外にも背骨が変形する側弯症を伴う場合があること、全身的に色素が薄いことなどが外見の特徴としてみられます。

精神発達の遅れや神経系の症状がみられる

特徴的な症状として、言語発達の遅れや注意欠如・多動症などの精神発達の遅れがあります。

特に表現をする事に関しての発達が乏しく、理解力の発達は進むことが解っています。

言語障害を伴う場合、早期から非言語でのコミュニケーション訓練を行うことが重要です。

場合によっては重度の神経障害を伴うことがあり、失調性の運動障害やてんかん発作が表れる患者もいます。

手足の運動に支障をきたすため、歩行障害などの運動発達の遅れが生じる可能性があります。

咀嚼や嚥下(飲み込み)が上手くいかない患者もおり、誤嚥のリスクがある点に注意が必要です。

合併症

アンジェルマン症候群の患者にみられる合併症をまとめると以下のようになります。

  • 呼吸障害
  • 睡眠障害
  • 消化管異常
  • 運動発達遅延
  • 自閉症
  • 視覚障害(斜視・乱視・遠視・近視・眼振)
  • 嚥下障害
  • 多食症・肥満
  • 脊柱側弯症
  • ミオクローヌス(けいれん発作)

上記以外に、水やキラキラしたものに強い興味を示す特徴があることが判明しています。

また、ちょっとしたことですぐ笑う、状況や状態に関わらず幸福そうな態度を取るなどの特徴がありますが、これらの詳しいメカニズムは解明されていません。

アンジェルマン症候群の治療と予後

アンジェルマン症候群の治療方法と予後について解説します。

神経症状や合併症への対症療法

アンジェルマン症候群は染色体異常が原因の疾患であり、根本的な治療方法は確立されていません。

さまざまな合併症が生じるため、出現した症状への対症療法が必要となります。

たとえばてんかん発作や睡眠障害に対して服薬でのコントロールを行ったり、運動機能の発達を促進するために理学療法士や作業療法士によるリハビリテーションを行ったりします。

定期的に検診を受け、神経症状や運動不足、運動障害への対処法を医師と相談しコントロールしていくことが重要です。

療育によるコミュニケーション訓練

療育とは障害を持つ児童に対しての発達支援のことです。

アンジェルマン症候群の患者は表現のコミュニケーションが苦手となる場合が多く、早期から訓練することが望ましいとされています。

言語聴覚士による発語訓練や、表情・ジェスチャーなどを用いた非言語性のコミュニケーションによって意思疎通の方法を獲得していきます。

こうしたコミュニケーション訓練は、学校や社会で生活していくためにとても重要であるため積極的に実施されています。

知的障害を改善する研究が行われている

アンジェルマン症候群の症状を緩和する治療薬の研究が進められていることが、最近の研究結果から報告されています。

アンジェルマン症候群の知的障害は神経細胞内に発生するNKCC1とKCC2という物質が原因とされており、利尿薬の投与でその物質を抑制することがモデルマウス実験にて確認されています。

今後、NKCC1やKCC2の発生を抑制する薬が開発されることで、アンジェルマン症候群の患者に生じる精神・知的障害を緩和できる可能性があるのです。

アンジェルマン症候群の検査方法

アンジェルマン症候群の検査方法を解説します。

生後半年~7歳の間の発達により診断される

アンジェルマン症候群の症状や特徴は新生児期には確認できず、成長や発達が進むことによって徐々に確認できるようになります。

そのため、生後半年くらいから診断が付くようになり、3〜7歳の間に診断されることが多いです。

CTやMRIでは異常が発見されない場合が多く、正確な診断をするには血液検査などを実施し染色体を調査する必要があります。

NIPTによる出生前診断

NIPT(出生前診断)とは、妊娠中に母親の血液を検査することで、胎児に染色体異常がないか確認することができる出生前検査のことです。

非確定検査であり、断定するには羊水検査など他の検査を併用する必要がありますが、出生前に疾患の有無を確認することで遺伝カウンセリングなどを受け、疾患への向き合い方や生まれてくる子供のサポートを備えることができます。

まとめ

アンジェルマン症候群は15番染色体の異常によって生じる先天性疾患の一つです。さまざまな身体的特徴や合併症が存在しますが、適切な対症療法とサポートが重要となります。本記事で紹介した症状や対処法を参考にし、お子さんの成長の手助けにしてみてください。

参考文献

・難病情報センター ーアンジェルマン症候群(指定難病201)

・小児慢性特定疾病情報センター ーアンジェルマン(Angelman)症候群