妊娠後期でも人工中絶はできるの?人工中絶が可能な週数と胎児の扱いについて解説|母体保護法とは?
妊娠したら、母体保護法という法律が関わってきます。お母さんの命を守るためです。
今回は、この母体保護法により22週以降の中絶が可能なのかと、週数によって変わる胎児の扱いについて解説します。
この記事の内容
母体保護法によって22週以降(妊娠後期)の中絶は認められない
母体保護法とは、人工中絶と不妊手術についての法律です。
母体保護法第1条
この法律は、不妊手術と人工妊娠中絶に関する事項を定めることにより、お母さんの命と健康を守ることを目的とするためにあります。
不妊手術とは、すでに子どもがいて出産を繰り返すには母体の健康が著しく損なわれるなどの場合と、妊娠・分娩が母体の生命の危機に及ぼすおそれがある場合の2つの理由に限り認められていてる、子どもを授からないようにする手術です。
女性側の手術は卵管結紮(けっさつ)術、男性側の手術は精管切除術(パイプカット)になります。
母体保護法第2条の2
人工妊娠中絶の定義は次のように決められています。
「この法律で人工妊娠中絶とは、胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に、胎児及びその附属物を母体外に排出することをいう。」
付属物とは胎盤、卵膜、暖帯、羊水のことです。
優生保護法第2条の2
そして優生保護法によって中絶できる期間は「胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に胎児及びその附属物を母体外に排出することをいう。」
とあります。
この胎児が生まれても、生きていられないとされている時期が21週6日すなわち22週未満と決められているのです。
母体保護法第14条
この14条には中絶を認める条件が決められています。
その内容は、妊娠継続または分娩が母体の健康を害する場合、経済的な理由により妊娠の継続、分娩が難しい場合であることが条件と決められていますが、強姦やレイプの末の妊娠時は、母体が経済的理由もなく、妊娠継続や分娩を経験しても健康が損なわれることがない場合でも人工妊娠中絶を認める旨の記載があります。
22週以降の中絶は認められない
母体保護法と優生保護法により、22週以降は胎児が母体の外に出ても生きていられると判断されているために、21週6日までしか人工妊娠中絶は認められないのです。
21週6日までは流産、22週以降は早産と、扱いも違ってくるのも上記のことが理由となっています。
人工中絶の時期と手術方法
人工妊娠中絶を行う時期によっては手術方法が変わってきます。
妊娠12週未満の場合
この時期は吸引法(電動吸引法・手動真空吸引法)、または掻爬法になります。
電動吸引法
子宮に筒状の器具を入れ、陰圧をかけて胎児や付属物を吸引します。
術中や術後の出血量が少なく、手術の時間も短いので母体への負担が少ないとされていますが、国内における実績のある医師がまだ少ないのが現状です。
手動真空吸引法(MVA)
WHOのガイドラインで推奨されている中絶方法です。
細く柔らかい管を子宮に差し込み、手動の吸引器で胎児や付属物を吸引します。
手動なので状況に応じて細かく調節ができ、母体を傷つけることなく手術をすることができます。
この吸引器や管は使い捨てのため、感染等の心配もありません。
掻爬法
日本の大学病院では、この掻爬法を最初に習うので慣れている医師が多いという理由で、妊娠初期の中絶手術の約8割がこの掻爬法で行われています。
手術前に子宮口を開き、スプーンの形をした器具や鉗子を使い、胎児と付属物を掻き出すという方法です。
吸引法よりも出血量が多く、手術時間も長くなります。
場合によっては深刻な事故を引き起こしたり、子宮穿孔(子宮に穴が開く)などがあったり、母体が傷つくなどのリスクがあります。
12週以上22週未満の中絶
この時期の中絶は中期中絶といい、手術の方法は分娩です。
子宮口や子宮頸管を拡げる薬を使い、分娩ができる体に近づけていきますが、この処置だけで半日から1日かかると考えてください。
それでもまだ子宮口や子宮頸管が広がらなかった場合は2日かかることもあります。
この処置で十分に子宮頸管が拡張されたら、次に陣痛を起こす薬を投与していき、娩出します。その後は子宮収縮が良好かどうか、全身状態の経過は問題ないかどうかを判断するために半日以上の時間が必要です。
経口中絶薬
2023年4月に、日本で初めての経口中絶薬「メフィーゴパック」が承認され、人工中絶の新たな方法として加わりました。これは9週0日以下の中絶にのみ使える薬です。
もちろん副作用やリスクもありますが、徐々に広がっていく方法だと思われます。
22週以降に母体や胎児側に妊娠継続のリスクが生じた場合
22週を過ぎた場合、中絶ができないことはわかりましたが母体や胎児に何らかのリスクが生じ妊娠継続が望めなくなった場合は出産する方法のみとなります。
早産になる
22週〜36週6日までの出産を早産と呼びます。
母体や胎児に何らかのリスクがあり、妊娠継続が難しくなった場合は緊急帝王切開などで出産し、お母さんや赤ちゃんの治療に当たります。
22週以降だと医療行為を受けることが認められ、救える命として救えます。
22週〜23週で出産した場合の生存率は約66%、26週以降に生まれた場合の生存率は約94%、30週以降に生まれた場合の生存率は98%とお腹に長くいるほど生存率は上がります。
また、500g未満で生まれた場合の生存率は約60%、1000g以上で生まれた場合の生存率は約97%です。
死産になる
死産とは産婦人科学会的には22週以降に赤ちゃんが何らかの原因で子宮内で亡くなったり、出産後まもなく亡くなったりしてしまうことを言います。
子宮内で亡くなってしまった場合は、中期中絶のように陣痛を起こし子宮から赤ちゃんが出てくるように促します。
12週以降の中絶や流産は法的な手続きが必要
産婦人科学会的には死産は22週以降ですが、法的には12週以降の流産は死産として扱われます。
このことから、12週以降に人工妊娠中絶を行った場合も死産となり法的な手続きが必要となります。
死産届が必要
死産をしてから7日以内に役所に届けなければなりません。
罰則もありますので、必ず7日以内に届け出ましょう。
死産届は赤ちゃんが亡くなった状態で生まれたときで、生まれて間もなく亡くなった場合は死亡届になり戸籍が作られます。
火葬が必要
死産届を出すと、「死胎火葬許可証」というものが渡されます。これは火葬場に提出し赤ちゃんを火葬しなければなりません。
ちなみに11週6日までに流産や中絶をした場合、死産届や火葬の必要はありません。胎児は専門の業者に引き取られると決められているからです。
このことから、人工妊娠中絶は初期の段階で決断する方が多いのです。
まとめ
法律で中絶できる期間が21週6日までと決まっていることがわかりました。
また死産の定義が法律と産婦人科学会では違うことから、12週以降の流産や中絶には法的手続きが必要だということ、中期中絶は12週未満の初期中絶より母体に負担がかかるということなど胎児が大きくなるにつれて、慎重に考えていかなければならない理由が分かりました。
人工妊娠中絶という手段を選ぶにしても、たくさん悩み迷うことでしょう。
どんな方法を選択しても、自分の体と心を労り大切にしてください。
参考文献
・たて山レディスクリニックー母体保護法と中絶の条件
・MSDマニュアルー不妊手術
・衆議院ー優生保護法
・みどりレディースクリニック横浜ー中絶手術の方法
・山手大塚レディスクリニックー中期中絶
・厚生労働省ー経口中絶薬
・NHKーサイカル
・stemcellー切迫早産
・霊園・墓石のヤシロー死産
・産婦人科・内科加藤クリニックー子宮内胎児死亡