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無脳症はエコー検査で判明できる?発症の原因や治療法についても解説

お腹の赤ちゃんはさまざまな要因によって、先天性の異常を引き起こすおそれがあります。無脳症は先天性の異常の1つで、エコー検査で分かる場合が多いです。

本記事では、無脳症の定義や診断方法、無脳症であるとわかった場合の対処法などについてご紹介します。「お腹の赤ちゃんが無脳症だったらどうしよう」と不安に感じている方は、ぜひ最後までご覧ください。

無脳症とはどのような病気?

はじめに無脳症とはどのような病気なのか、症状や診断方法、原因などをご紹介します。無脳症は、一定の確率で発生する先天的な胎児の異常です。誰にでも発生する可能性があり、原因は不明です。

その一方で比較的発見が早い異常であり、妊娠12週目くらいに分かるケースもあります。

無脳症は先天的に大脳が欠損している状態

無脳症とは大脳や小脳の一部、もしくは大半が欠損したり萎縮していたりする症状の総称です。先天性疾患の一種である「神経管閉鎖障害」に含まれ、妊娠4週~5週目に発生します。

神経管閉鎖障害は無脳症のほか、二分脊椎や脳瘤といった症状があります。1000例中1例の割合で発生し、母体の年齢や妊娠に至る経緯などとは無関係です。

大脳や小脳は人間が生きていくうえで必要な機能が集中している臓器のため、無脳症の赤ちゃんが母体の外で長期生存した例はほとんどありません。

神経管閉鎖障害の一種で原因は不明

無脳症が発生する原因は、赤ちゃんの染色体異常や母体の栄養不足が原因といわれていますが、正確な原因は不明です。特に、葉酸が不足すると無脳症を含む神経管閉鎖障害の発症率が高まる可能性が指摘されています。

しかし、葉酸を十分に摂取した場合でも、神経管閉鎖障害が発生した例はあるため「葉酸不足が原因」と一概には決められません。また、母体の年齢・人種などによっても発生率に差があるといった説も唱えられていますが、こちらもまだ仮説の域をでません。

葉酸で無脳症は予防できる?

葉酸とは、ビタミンB群の一種です。DNAやRNAなどの核酸やタンパク質の合成に必要な栄養素であり、性別・年齢にかかわらずすべての方に必要な栄養素です。

妊娠中に葉酸が不足すると、神経管閉鎖障害の発症確率が上がる可能性が高いとされています。そのため、厚生労働省は、2000年に「妊娠を計画している女性や妊娠する可能性がある女性は、食事からの摂取に加えて1日あたり400㎍の葉酸摂取が望ましい」と発表しています。

葉酸を摂取していれば必ず無脳症が予防できるわけではありません。また、葉酸はサプリメントでも摂取できますが、過剰摂取は健康被害のおそれもあるので、医師と相談のうえ服用してください。

無脳症はエコー検査などで分かる

無脳症の発生は妊娠4週~5週目ですが、エコー検査で診断が可能になるのは頭の形がはっきりと分かるようになる11週目以降です。また、エコー検査のほか、母体血清マーカー検査(クアトロテスト)やMRI検査などでも、無脳症の診断が可能です。

妊娠中の定期検診で異常が疑われた場合、再度大きな病院で精密なエコー検査を行なって診断が下される流れが一般的です。

なお、母体血清マーカー検査は無脳症以外に「21トリソミー(ダウン症候群)」と「18トリソミー(エドワード症候群)」などの染色体異常の可能性も診断できます。

エコー検査で無脳症がわかった場合の対処法

無脳症は、最速で妊娠11週目頃(妊娠3ヵ月)に判明します。医師は、胎児に異常の可能性が見つかった場合、妊婦とそのご家族に正確に真実を伝えます。ここでは、エコー検査で無脳症と診断された場合の対処法を紹介しましょう。

根本的な治療は現代医学ではできない

無脳症は、人が生きていくために欠かせない脳が欠損したり変形していたりする障害です。現在の医学では根本的な治療はできません。また、胎児は母体外で生きていく力がないため、出生後数日以内に亡くなる事例が大半です。

したがって、無脳症と診断された場合、医師から人工妊娠中絶を勧められます。母体の負担を考えると早めの処置が適切ですが、ご家族と話し合ったうえで決断してもかまいません。妊婦さんが望めば、カウンセラーによるケアも受けられます。

母親が望めば臨月まで胎内で育てられる

人工妊娠中絶は21週6日を過ぎるといかなる理由であっても行なうことができません。理由があって無脳症の診断が遅くなったり母親が望んだりした場合は、臨月まで赤ちゃんを胎内で育てられます。

この場合、通常の出産を行なって胎児は緩和ケアを受けます。赤ちゃんが何日生存できるかは個人差がありますが、緩和ケアの最中に赤ちゃんのお世話が可能なケースもあります。医師や家族とよく相談して、どのような治療をするか決断してください。

必要に応じてメンタルケアを受ける

授かった赤ちゃんを失うのは、母親はもちろんのこと父親にとっても大変つらいものです。心の傷を長い間抱えてしまう方も珍しくありません。

現在は、多くの病院が両親のメンタルケアに力を入れています。カウンセラーが常駐している病院や、提携しているメンタルクリニックを紹介してくれる病院もあるでしょう。かかりつけ医や看護師も相談に乗ってくれるので、つらい気持ちはひとりで抱え込まず、相談してください。

夫婦で話し合う場を設ける

胎児が無脳症と診断された場合、父親も呼んで告知をする病院もあります。現在の医学では無脳症の治療法はなく、生まれた赤ちゃんは長く生きられません。前述したように人工妊娠中絶を勧められます。

なお、中絶の同意書には、原則的に母親だけでなくパートナーの署名・捺印も必要です。どのような対処を取るのか、夫婦でしっかりと話し合って決めましょう。なお、希望すればセカンドオピニオンも受けられます。

無脳症以外の神経管閉鎖障害とは?

Close up of a doctor examines the internal organs of a girl with a sensor ultrasound diagnostics.

無脳症は神経管閉鎖障害のなかで最も重い症状であり、治療法はありません。しかし、そのほかの障害は適切な処置をすれば日常生活が可能になるケースもあります。ここでは、無脳症以外の神経管閉鎖障害について解説します。

二分脊椎

二分脊椎とは、脊髄や脊椎の癒合不全を生じている症状です。脊髄や髄膜が脊椎外に出ている顕在性二分脊椎と、脊椎の中に留まっているが癒着不全を起している潜在性二分脊椎があります。

二分脊椎を発症していると筋力低下や麻痺が出現するほか、尿失禁や尿路感染症、便秘、便失禁など排泄に関する症状が現われます。しかし、外科的手術やリハビリによって日常生活を送れるようになる可能性があるので、医師としっかり話し合って治療方針を決めましょう。

脳瘤

脳瘤とは本来閉じる頭蓋骨に穴が開いており、そこから脳や髄膜が外に飛び出している状態です。脳の中央に沿ってできる事例が多いのですが、前頭部や鼻の奥にできる事例もあります。

脳瘤の状態によって髄膜瘤・髄膜脳瘤・脊髄髄膜瘤・脳瘤など、呼び方が異なるものの、脳組織が一部頭蓋の外に出ている状態には変わりありません。

後頭部から頭頂部にできた脳瘤はエコー検査で発見されることが多く、MRI診断で診断が確定します。なお、鼻の奥など分かりにくい場所にできた場合、出生後に診断される可能性があるでしょう。

ほかの脳奇形を合併していない脳瘤において、発達は正常なケースがほとんどです。

神経管閉鎖障害の治療方法

二分脊椎や脳瘤は、エコー検査やMRI診断によって胎児の段階で障害が判明するケースが大半です。出生前に産婦人科だけでなく、小児科・形成外科・リハビリテーション科などと連携して、治療方法や方針を決めていきます。

小さなクリニックで神経管閉鎖障害と診断された場合、設備が整った規模の大きい病院へ転院を勧められる場合もあるでしょう。

障害と診断されると動揺する方も多いかもしれません。しかし、外科的処置によって見た目や症状が改善するケースがほとんどです。正常に発達できる確率も高いため、落ち着いて医師に相談してください。

出生前診断で障害の可能性を告げられたら?

医学の発達により、妊娠11週頃から無脳症をはじめとする胎児の障害が診断できるようになりました。妊娠が判明して喜びに包まれているときに、障害が告知された戸惑いや悲しみは大変なものです。

しかし、無脳症のような一部の重篤な症状を除いて、出生後に外科的な処置やリハビリで治療可能な障害もあります。まずは医師の説明をしっかりと聞いて、必要と判断すればセカンドオピニオンを探してください。問題や悩みを抱え込まず、医師や看護師に相談しましょう。

まとめ

無脳症を始めとする先天性の障害は一定の確率で発生します。そのため、完璧に予防する方法は現在のところありません。その一方で、親をケアしサポートする手段も充実しているため、つらい気持ちはひとりで抱え込まず相談することも大切です。

また、障害の早期発見には定期検診が大変重要となるため、忘れずに必ず受診しましょう。

参考文献

・MSD マニュアル-無脳症

・厚生労働省eヘルスネット-葉酸とサプリメント