体外受精の適応と確率、費用について解説します
体外受精とは卵子と精子を体外に取り出し受精させたのち子宮内に戻す治療法です。
受精卵は「胚」と呼ばれ「初期胚」か「胚盤胞」の時期に移植されます。
体外受精の治療を受けるには、いくつかの条件があります。
そこで今回は体外受精の流れや確率、費用について解説します。
この記事の内容
体外受精とは
18世紀から始まった体外受精の研究は1978年に成功したとする報告がイギリスでありました。
日本産婦人科学会の2019年の発表では、約600の施設で45万8101件の治療が行われた結果、6万598人の赤ちゃんが生まれています。累計数は71万931人です。
体外受精とは
体外受精とは、女性の卵子を体外に取り出し男性から採取した精子を培養液の中に混ぜて受精させた後、受精卵を女性の子宮に戻して着床させる治療法のことです。
体外受精には受精させる方法によって胚移植法と顕微授精法があります。このような精子や卵子(配偶子)、受精卵(胚)をからだの外で取り扱う方法は「高度生殖補助医療 Assisted Reproductive Technology:ART 」と呼ばれています。
不妊治療は一般的にはいくつかの段階をふみます。
できるだけ自然な方法から始め、治療が成功しなかった場合は身体に比較的負担をかけない治療方法に移行します。
体外受精は不妊治療の中でも受精の確率が高い治療ですが、卵子と精子を採取しなければならないことから心身に負担がかかるため、不妊治療の最初の段階で積極的に行なわれる治療法ではありません。
体外で受精をさせる方法には「体外受精」と「顕微授精」があります。
体外受精を行うケース(適応となるケース)
不妊治療は女性だけではなく、男性不妊にも対応しています。
不妊の原因は2003年に日本受精着床学会が行なった不妊治療患者へのアンケート調査結果では、女性側は卵巣因子によるものが21%、卵管因子20%、子宮因子18%です。
男性側の因子は33%ですが、男性にも原因があることはあまり知られていません。その他の原因には免疫因子は5%、その他4%となっています。
①卵管性の不妊
重症の子宮内膜症や性感染症(クラミジア感染や淋菌、梅毒など)が原因で排卵された卵子をうまく受け取れない場合の不妊をいいます。
②男性不妊症
男性不妊の約8割は「造精機能障害」であり、これは精子の数が少ないか造られていない、あるいは運動能力に問題があるというものです。
- ③免疫性不妊症の方
- 免疫性不妊症は、精子を外敵と判断する抗体によって受精が制約されるケースです。
- 「攻精子抗体」や「精子不動化抗体」とよばれるもので、男女ともにおこる不妊症です。
- ④原因不明の不妊症の場合
- 不妊症の1/3(全不妊症の10〜25%)が原因不明です。
- 現在ある検査で見つけることのできない不妊症です。
- 加齢による精子や卵子の機能低下もその一つで、卵管内で受精できない場合の一部も原因不明とされています。
体外受精と人工授精の違いについて
人工授精は体外受精に比べて自然の受精に近い方法です。どちらも人の手を介するので、人工の授精だと思ってしまいがちですが、大きな違いは受精が行われる場所が体内か体外でおきているかの違いです。
人工授精の方法は、タイミング法に似て排卵に合わせて処置をします。管を使って精子を直接子宮内に注入する、体内の受精です。妊娠できる確率は低めですが、からだへの負担は軽く済むというメリットがあります。
体外受精は一般的に人工授精でも妊娠しなかった場合に行われる治療法です。体外受精はあらかじめ採取している卵子と処理した良好の精子を、同じシャーレに入れて受精させる体外での受精です。体外受精には顕微鏡を見ながら細い針を使って、処理した精子を卵子の中に直接注入する顕微授精の方法もあります。
体外受精の流れ
体外受精の流れは以下のとおりです。
①卵巣で卵子を育てる
②成熟した卵子を取り出す(卵子の採取)
③精液の採取
④受精させる
⑤受精の確認と培養
⑥良好な胚を見極める
⑦胚を子宮に戻す(胚移植)
⑧妊娠の確認・判定
体外受精の確率を高めるために排卵障害がない場合でも最初は排卵誘発剤を使います。排卵を誘発するため卵巣を刺激する方法で、一人一人の卵巣の状態に合わせて3つの方法が選択されます。
①排卵誘発剤を使用しない
「無刺激法(完全自然周期)」
②クロミッドの服用やMHG注射を併用します。採卵数が増えて冷凍保存ができる。
「低刺激法」
※HMGとは脳の下垂体から分泌されるFSH、LHという女性ホルモンを含む薬剤
LH:黄体形成ホルモン. FSH 卵胞刺激ホルモン
③排卵誘発剤の注射を連日おこなって多くの卵子を採取する。高額で副作用が起きやすい。
「高刺激法」
採卵・採精
採卵は静脈麻酔か局所麻酔をして行います。経膣超音波(エコー)の画像を見ながら排卵前の卵胞を採卵針で吸引する方法です。
精子の採取は採卵当日に医療機関の採精室で行なうか自宅で採取したものを持参します。回収後、運動性の良い精子を選び精液処理を行ないます。
医療機関に持参する場合は温度変化に注意します。精液の状態によっては顕微授精を選択することになります。
受精・培養・胚移植
採卵された卵子数個と良好な精子を『5~20万個/ml』の濃度で4時間から一晩かけて培養します。培養環境は温度やガス濃度を調整した体内と同じ環境をつくります。受精卵が細胞分裂を始め、「初期胚」と呼ばれる4〜8細胞になった後、さらに2日から6日間培養します。この段階が「胚盤胞」です。
分割の速度が早く、胚の割球がほとんど同じ大きさで、割球の一部にフラグメントがほとんど見られない胚が「良好胚」です。
胚移植に用いるのは「初期胚」と「胚盤胞」です。移植方法は培養液と胚を吸引した細いカテーテルを使って子宮腔に胚を移します。平成20年頃から子宮にもどす胚は原則1つになりましたが、35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった方については、2胚移植が許されています。
妊娠判定
胚移植から約10〜2週間後に、尿検査か血液検査でhCGの量を調べて判定します。
着床率を高めるためにおこなうこと
卵子と精子の質を高めるためにいくつかの方法が試みられています。精子のDNA(染色体)にダメージがあるものや運動率が悪い、形態の異常の割合を低くする精子の処理をしています。精索静脈瘤などの病気があるときは、先に治療してから体外受精や顕微授精に望むこともすすめています。
アシステッド・ハッチング
胚移植の着床率を高めるために「アシステッド・ハッチング」という移植サポートがおこなわれています。
これは、受精を防止したりする役目をもつ、胚の「透明帯」を薄くしたり開孔したりして着床を促す方法です。
黄体ホルモンの補充
黄体ホルモンの量の低下や持続時間の異常などは妊娠率に影響してくるため、着床率を高めるために、採卵された卵に黄体ホルモンを補充します。
胚凍結
排卵誘発剤を使った採卵は数個の受精卵を得ることができます。
余剰の胚は凍結保存して採卵回数を減らすことができる上に、費用の負担を減らせます。
着床率も卵子のみを冷凍したものや新鮮胚(受精卵)よりも着床率が良いとされているからです。
成功確率(流産率)はどれくらいなのか
体外受精の成功率は人工授精よりも妊娠する確率が高いとされていますが、年齢によって差があります。
2017年日本産婦人科学会の資料では、移植周期あたりの妊娠率は凍結融解胚卵)で 34.39%、体外受精(IVF )23.11%、顕微授精(ICSI) で 20.29%です。過去 10 年間はいずれの手法もほぼ同じ割合で推移しています。
成功確率
生殖医療の成績はできるだけ早い時期に始めることが大切です。
日本生殖医学会はデータを公開しています。2017年の治療成績では、生産率(生きて生まれた割合)は32歳ぐらいまではほぼ一定で、約20%の率にあるのですが、それ以降は徐々に下降し40歳では9.3%まで下がります。
妊娠後の流産率は33歳ぐらいまでは約15〜19%で推移します。34歳から徐々に増えていき37歳からは急激に上昇して、43歳では49.3%と半数近くまで増えていきます。40歳を超えると生殖補助医療でも赤ちゃんを得ることが厳しくなります。
出産率は治療方法に関係なく、いずれの手法でも71〜72%程度は赤ちゃんが生まれています。基本的に体外受精だと回数ごとの妊娠確率は同じだとされていますが、3回以上試みても妊娠しない場合は卵子や精子、子宮に何らかの問題が残っているかもしれません。
費用
厚生労働省の調査によれば、体外受精の1回あたりの平均費用は約50万円です。治療費は公的医療保険の対象外で全額自費であるためかなりの出費です。
生殖医療に対する制度の改正があり、2022年4月1日以降に治療を開始した生殖補助医療の一部に対して、医療保険適用と併用した先進医療や自費診療に助成が開始されました。
ただし、保険適用の対象となるためにはいくつかの条件があるため、最寄りの市区町村に相談すると良いでしょう。
<対象者の例>
①生殖補助医療(体外受精・顕微授精)以外の治療法によっては妊娠の見込みがないか、または極めて少ないと医師に診断されていること
②治療開始時に戸籍上の夫婦または事実婚関係にある夫婦であること
③治療開始日における妻の年齢が43歳未満であること
体外受精の問題点
不妊治療に対するストレスを感じる方は少なくありません。経済的負担も問題になります。パートナーとの関係性がぎこちなくなったとか、職場の理解が足りないなど通院に対する悩みもあります。また排卵誘発剤の副作用があるなどARTにはいくつかの問題点もあります。
自然妊娠と比べても、体外受精(生殖補助医療:ART)は染色体異常症や先天性心疾患のリスクはないとされているのですが、成功率には年齢が関係していることから医療費の助成は43歳までに限定されてしまいました。
まとめ
体外受精は基本的に保険が適用されません。
1回の試みで赤ちゃんを得ることは難しいと考えて、心の準備や予算の確保をしておくことが大切です。
医療費の補助以外に医療保険の高額医療制度や制度以外の補助金を用意している区市町村があるので利用を考えても良いでしょう。
子どもを望む場合は、不妊治療への決断は抵抗があるかもしれませんが、早い段階から挑戦することで妊娠率や生産率(出産した割合)が高くなります。
参考文献
・野村総合研究所-不妊治療の実態に関する調査研究
・厚生労働省-登録・調査小委員会
・厚生労働省-不妊治療に関する取組