染色体異常とは?染色体の基礎知識や染色体異常について
35歳を超えての出産は一般的に高齢出産といわれます。加齢によって卵子の質や自然妊娠のしにくさ、胎児の染色体異常のリスクが増加することも指摘されており、妊娠・出産について不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。この記事では染色体異常が引き起こす疾患や障害について解説します。
また、出生前診断についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
この記事の内容
染色体異常とは
人体を構成する細胞の中には父親と母親それぞれの遺伝情報(DNA)を含む染色体が存在します。
この染色体の本数は生物によって異なり、ヒトの場合は父親由来と母親由来の1本ずつが対になった常染色体(22対)と性染色体(1対)、23対46本でできています。染色体のどこかに構造的な異常があったり、本数に過不足があったりすると遺伝子の働きに問題が起こります。これが染色体異常であり、さまざまな疾患や障害の原因となります。
染色体とは?
染色体はDNA(遺伝情報が鎖状に連なったもの)が棒状に折りたたまれた物質です。
1本の染色体に数百〜数千の遺伝子が含まれています。
23対のうち22対が性別以外の遺伝情報を持った常染色体で1番〜22番まで番号が付けられています。番号を持たない1対が性別を決定する性染色体です。
常染色体
性別以外のさまざまな遺伝情報を持っているのが常染色体です。2本で1対、全部で22対あり、染色体の長い順に1番〜22番まで番号が付けられています。
性染色体
性染色体は性別の決定に関わるもので、X染色体とY染色体の2種が存在し、2本の組み合わせにより男性(X染色体とY染色体が1本ずつ)か女性(X染色体が2本)になります。
染色体の「数的異常」
本来2本で1対をなす染色体の数が1本もしくは3本になることがあります。
1本しかないものを「モノソミー」、3本あるものを「トリソミー」といい、染色体異常症を発症します。最もよく知られるものは、21番染色体が3本になる「21トリソミー」で、ダウン症候群と言われる疾患です。
染色体の「構造異常」
染色体の本数に異常はなく、染色体に部分的な異常が見られるものです。
ある染色体が本来対になるべきでない別の染色体と結合する「転座」、染色体の一部が欠けた「欠損」、染色体の「重複」などがあり、心疾患、低身長、けいれん、知的障害などさまざまな疾患や障害の原因となります。
流産の可能性
染色体の異常により発育不良となり、流産または死産となる場合があります。
染色体の数的異常の場合は妊娠8週までに流産となる可能性が75%ほどといわれ、流産と診断されるもののうち50〜70%は染色体異常に起因すると考えられています。
染色体異常が引き起こす疾患
染色体異常が原因となる疾病や障害はさまざまです。
「数的異常」によるもの、「構造異常」によるものの代表的なものを紹介します。
染色体の「数的異常」により起こる疾患について
本来は1対2本で形成される染色体が1本のみ(モノソミー)または3本ある(トリソミー)状態が「数的異常」です。これらにより起こる疾患の代表的なものにターナー症候群(モノソミーX)とダウン症候群(21トリソミー)があります。
ターナー症候群
性染色体で起こる数的異常です。女子のみに起こる疾患で、2本で1対をなす性染色体のうちの1本がない状態で「モノソミーX」と呼ばれます。1000人〜2500人に1人の割合で起こるといわれます。
ダウン症候群
21番目の常染色体が3本ある状態で「21トリソミー」といわれる代表的な染色体異常症です。600人〜800人に1人の割合で出生するといわれています。
染色体の「構造異常」により起こる疾患について
染色体の構造異常によってもさまざまな疾患・障害が起こります。
特徴的な顔貌を持ち、心疾患や内分泌障害、発達障害、肥満、低身長、難聴、弱視、てんかんなど多くの合併症を起こすことが多いといわれます。
出生前診断で分かること
染色体異常を持った胎児は、出生後にさまざまな治療やサポートを必要とする場合も多いので、なるべく早い段階で胎児の状態を検査してその後に備えたいと願う方も多いでしょう。
出生前診断は保険適用外であり経済的な負担は少なくありませんが、早期に胎児の状態を把握することで、適切な対応が可能になります。
クアトロ検査と羊水検査
クアトロ検査・羊水検査ともに妊娠15週〜16週頃に行う検査です。
クアトロ検査
母体より血液を採取し、タンパク質を解析することで胎児が疾患を有する可能性を検査します。対象はダウン症候群、エドワーズ症候群、開放性神経管奇形の3疾患です。
血液検査のみの母子ともにリスクのない検査ですが、あくまで可能性の有無を判定するスクリーニング検査です。より正確な診断をするには羊水検査で染色体を解析する必要があります。
羊水検査
羊水に含まれる胎児の細胞を取り出して解析する確定検査です。
胎児が持つ染色体異常による疾患を調べることができ、99%の高精度で診断可能です。
しかし、妊婦さんのお腹に針を刺して羊水を採取するので、確率は1%ほどですが流産の危険性があり、ほかにも感染症や出血、破水などが起こる可能性もあります。
NIPT(新型出生前診断)とは
NIPT(新型出生前診断)は、妊娠10週〜16週と出生前診断の中では最も早期に行えるものです。血液検査によりダウン症候群、エドワーズ症候群、パトウ症候群の3疾患について可能性を判定するスクリーニング検査です。
出生前診断で分かること
出生前診断を受けることで、胎児に先天性の疾病や染色体異常がないかを調べることができます。
育児環境を整えたり、出産後に適切な治療を受ける準備をしたりするために、早期に胎児の状態を把握することはとても重要です。
高齢出産のリスクについて
これまで述べてきた染色体異常は、どのような年齢でも起こるものですが、高齢出産とされる35歳以上での妊娠・出産の場合に発生率が高くなります。
出産適齢期と高齢出産のリスク
日本産婦人科学会は35歳以上の初産を高齢出産と指すとしています。
妊娠年齢25歳と35歳の場合とを比較すると、ダウン症候群で約3.24倍、その他の染色体異常症では2.47倍と発生率が増加することが厚生労働省の調査により分かっています。
経産婦であっても加齢や体力低下により病気にかかりやすくなり、初産の場合は難産になる確率が高いことも知られています。
胎児への影響とリスク
どれだけ高い医療技術をもってしても、卵子の老化を止めることはできません。
妊娠適齢期が25歳から35歳といわれるのはそのためで、胎児に先天的な異常が見られる確率が加齢と共に高くなることに加え、妊娠高血圧や妊娠糖尿病などの合併症が起きる割合も大きくなります。
安心して出産するために
高齢出産についてはリスクばかりが取り沙汰されますが、メリットがないわけではありません。年齢を重ねることで心にゆとりが生まれ、経済的にも充実した状態で出産や育児に臨める利点もあります。
育児をサポートしてもらえる環境を整えるなどすることで、想定外のことが起きた場合にも安心して子育てができます。
出生前診断は受けるべき?メリットとデメリット
出生前診断は任意で受けるものであり、その判断は個々に任されています。
どのように考えれば良いのでしょうか。
出生前診断のメリットとデメリット
出生前診断を受けることで、胎児の状態を早期に把握できることは大きなメリットです。
もし何らかの疾病や障害が発見されても、育児に向けての準備を早くから始められることは安心感に繋がります。
一方、出生前診断を受けるには経済的な負担が大きいこと、胎児へのリスクが心配されることが挙げられます。絨毛検査や羊水検査における流産のリスク、胎児に疾病や障害が見つかった際の対応は、多くの方が悩まれるところです。
出生前診断の費用
出生前診断の費用は保険適用外であり、金銭面での負担は避けられません。
平均的な予算は以下のとおりです。
非確定的検査
クアトロ検査 2万円〜3万円 NIPT(新型出生前診断) 8万円〜20万円
確定的検査
絨毛検査 10万円〜20万円 羊水検査 10万円〜20万円
まとめ
染色体異常による疾病や障害は、確定検査により99%の精度で診断が可能です。
出生前診断を受けるか否かは、出産を控えた方にとっては簡単に答えが出せる問題ではなく、深刻な状況に直面することも少なからずあるでしょう。
胎児の状態をあらかじめ知ることでその後へ備えられることは大きなメリットです。
参考文献
・国立精神・神経医療研究センター-染色体異常・遺伝子異常症
・小児慢性特定疾病情報センター-染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群
・公益社団法人日本産婦人科医会-流産の原因 2.染色体異常